大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)1311号 判決 1964年6月26日

原告 大同繊維工業(株)

被告 国

訴訟代理人 山田二郎 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

前記請求原因第一項乃第三項前段まで記載の事実は当時者間に争いがない。

被告が右還付に際し加算した別表甲欄記載の金額を算出するについては、これを国税徴収法及び国税通則法に定める過誤納金還付及びその加算金の規定により計算したものであることは当事者間に争ないところ、原告は、本件還付は判決によつて違法とされた徴収金を返還するのであるから、右国税徴収法等の規定を俟つ迄もなく当然返還さるべきものであり、且つ返還の際は延滞加算金に相当する遅延損害金を附加すべきものであると主張するので判断する。

法律において過誤納の国税を還付すべき場合及びそれに附加すべき加算金の規定としては、

(一)  旧国税徴収法(明治三〇年法律第二一号)第三一条ノ六(昭和二三年法律第一〇七号、所得税法の一部改正等の法律による新設、同年七月七日施行)に「納税義務者ノ納付シタル国税、督促手数料、延滞金及滞納処分費ニ過誤納アリタル為当該過誤納額ヲ金銭ヲ以テ還付シ又ハ他ノ未納ノ国税、督促手数料、延滞金及滞納処分費ニ充当スル場合ニ於テハ……」と規定し(後昭和二五年法律第六九号による改正等で「督促手数料、延滞金」は削除された)、続けて同条でその際附加すべき還付加算金の率を定め、

(二)  新国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号、右旧国税徴収法の全面改正、昭和三五年一月一日施行)第一六一条に「税務署長、国税局長又は税関長は過誤納に係る国税(以下「過誤納金」という。)があるときは、政令で定めるところにより、遅滞なく、金銭で還付しなければならない。」と規定し、同第一六四条にその還付加算金の定めを置き、

(三)  国税通則法(昭和三七年法律第六六号、同年四月一日施行)第五六条に「国税局長、税務署長又は税関長は、還付金又は国税に係る過税納金(以下「還付金等」という。)があるときは、政令で定めるところにより、遅滞なく、金銭で還付しなければならない。」と規定し、同第五八条にその還付加算金の定めを置いた上、同時に国税通則法の施行に伴う関係法令の整備等に関する法律(昭和三七年法律第六七号、前同日施行)、第二八条により右新国税徴収法第一六一条から第一六五条迄を削除したものが存する。

右旧国税徴収法第三一条ノ六、新国税徴収法第一六一条、国税通則法第五六条の規定はいずれもその文言上、過誤納の国税等がある場合に当然これを遅滞なく還付すべきことを前提として定めたもので、右の過納の税金とはその納付のときは租税債権があつたが、後に賦課処分の取消等により、租税債権(債務)が消滅したときに生じ、誤納の税金とは、租税債務がない場合又は租税債務額を超えて納税があつた場合に生ずるものと解せられる。ところで、本件にあつては、課税の基本たる更正決定が違法として確定判決により取り消されたものであつて、納付のときに存した租税債務がその後の課税取消処分等により消滅した場合であるから、まさしく右各条にいわゆる還付する場合に該当する。従つてこれに対する加算金も前記旧国税徴収法第三一条ノ六、新国税徴収法第一六四条、国税通則法第五八条を適用して算出した金額を支払えば足り、これによらず、延滞加算金(納期限後完納しない場合における)と同率の遅延損害金を附加すべきことを前提とする原告の主張は失当として排斥を免れない。

次に原告は、右国税徴収法等の還付金の定めによる場合であつても、賦課事業年度当事の加算金の率によるべく、且つその後の法令の改正によつてその加算金率に変更があつても、法律不遡及の原則により、なお従前の加算金率を適用すべきであると主張するのでこれらの点を判断する。

先ずこの点についての法律の規定を捨つてみると、旧国税徴収法第三一条ノ六、新国税徴収法第一六四条、国税通則法第五八条はいずれも過誤納金の還付に際しては納付の日の翌日より所定の加算金を附加すべき旨を定め、右加算金の割合は、旧国税徴収法第三一条ノ六により当初は日歩一〇銭(過誤納額百円につき一日一〇銭の割合、以下同じ)であつたが、昭和二五年法律第六九号(昭和二五年四月一日施行)により日歩四銭に、次いで昭和三〇年法律第三九号(昭和三〇年七月一日施行)により日歩三銭にそれぞれ改正され、新国税徴収法第一六四条でも日歩三銭に据置かれていたところ、国税通則法(昭和三七年四月一日施行)第五八条で日歩二銭に変更されている。しかして、問題となつた過誤納金の賦課事業年度(或は具体的に納税義務の発生した日)と現実にそれぞれが納付又は徴収された日との間において前記法律の改正による日歩の変更があつた場合、その過誤納金の還付加算金をいずれの日に施行されている法律によるべきであるかの点については特に規定がなく、ただ納付の日以後に法律の改正があつた場合に適用されるべき経過規定と解されるものとして、

(一)  昭和二五年法律第六九号の附則第九項には「法律施行前に納付した国税、督促手数料、延滞金及び滞納金及び滞納処分費につき過誤納があつたため、この法律施行後に金銭をもつて還付し、又は他の未納の国税、(中略)に充当する場合において、当該過誤納額に加算する国税徴収法第三一条ノ六の規定による還付加算金の金額は、納付の日の翌日から昭和二五年三月三一日までの日数に応じ過誤納額百円につき一日一〇銭の割合を乗じて計算した金額と同年四月一日から還付のため支出し(中略)た日までの日数に応じ過誤納額百円につき一日四銭の割合を乗じて計算した金額との合計金額とする。」との規定が、

(二)  昭和三〇年法律第三九号の附則第5項には「新法第三条ノ六の規定は、この法律施行後に支払い、又は未納の国税若しくは滞納処分費に充当する還付加算金について適用する。ただし、当該還付加算金の全部又は一部でこの法律施行前の期間に対応するものについては、なお従前の例による。」との規定が、

(三)  国税通則法附則第五条には「第五十八条(還付加算金)の規定はこの法律の施行後に支払決定又は充当をする還付金等に加算すべき金額について適用する。ただし、当該加算すべき金額の全部又は一部でこの法律の施行前の期間に対応するものの計算については、従前の税法の例による。」との規定がそれぞれ見出される。

そこで考えてみると、そもそも、過誤納金等を還付するに際し、加算金を附するということは、現実に納付あるいは徴収された国税等が過誤納金となつたとき、これを返還するとともに、これに附加して法定の率による金員(実質的には、過誤納金額に対する相当の果実)の返還をする趣旨であつて、過誤納の原因となつた賦課徴収手続の瑕疵等それ自体を原因としてその賠償として加算金を支払うという性質のものではないし、過誤納金の還付義務は、現実に納付あるいは徴収(特別の場合を除き)された税金が過誤納金となつたとき始めて発生するものであるから、還付義務の発生そのものは、税金が現実に納付される以前の納税義務の発生原因のある賦課事業年度、賦課決定、納期限が何時であつたかは直接には関係がない。しかして、還付加算金は過誤納金の還付義務に伴い生ずるものであるから、その加算金の率もまた還付義務が発生し、還付さるべき適状になつた時より前に効力のあつた法令に定める率を適用する余地はなく、還付さるべき適状になつた時において現に効力ある法令に定める率を適用すべきである。前示旧国税徴収法第三一条ノ六、新国税徴収法第一六四条、国税通則法第五八条の各規定はいづれも当然にこの趣旨の下に規定されたものと解せられる。又、その趣旨のもとに前記昭和二五年法律第六九号の附則第九項、昭和三〇年法律第三九号の附則第五項、国税通則第五条の規定を通覧すれば、その後現実に納付した後)、法令の改正により率に変更あるときは遂次(還付済に至るまでの間)現実に加算金の発生する時において現に効力ある法令(改正された)に定める率を適用すべきであり、改正後においても右適状になつた時の法令に定める率を適用するについては更に特別の規定がなければならないことが明らかである。しかして、前示改正等の経過規定にはいずれも改正又は新法施行の日以後において遂次(還付済に至るまでの間)現実に発生する加算金についてなお、従前(還付適状の時における率)の例によるとは規定していないところである。よつて、原告の還付加算金率を当該税金の賦課事業年度当時の率によるべしとする主張は理由なく採用できない。

そうして、本件においては、前示のとおり、更正決定が確定判決により取り消され賦課した時にさかのぼつて租税債務が消滅した結果、本件納付金額が過誤納金となつたのはその納付の日である。しかして原告が納付した日は別表(一)の金一二八、四六六円については昭和二四年六月三日、別表(二)(1) の金一〇〇、〇〇〇円については昭和二七年六月三〇日、別表(二)(2) の金九二、一四五円については昭和二九年四月一五日、別表(二)(3) の金九三六〇円については昭和二八年六月一八日、別表(二)(4) (5) の金九九一、〇八八円及び金一五三、四五〇円については昭和三七年六月一日であること当事者間に争がないから、本件還付加算金は、右納付の日の翌日以降各納付金額につき昭和二五年三月三一日迄は日歩一〇銭、昭和二五年四月一日以降昭和三〇年六月三〇日迄は日歩四銭、昭和三〇年七月一日以降昭和三七年三月三一日迄は日歩金三銭、昭和三七年四月一日以降過誤納金還付を了した日までは日歩金二銭を支払えば足りるものと解する。

従つて原告の主張はいずれもその前提を欠き失当として排斥を免れず、すでに被告が還付加算して支払つたことを原告において自認する別表甲欄記載の金額は右計算に従つたものであり、(被告は昭和三七年四月二日迄を日歩三銭、四月三日以降を日歩二銭として計算しているが勿論右計算の範囲内のもので原告の利益になつている)、これを超えて支払を求める原告の請求は理由がない(丈も成立に争のない乙第四号証によれば、別表(二)の合計金二九二、七七五円に対し被告は金二九二、七七〇円を支払つたのみであるが、これは国税通則法第九二条第三項による端数切捨によるものと認められ、原告もこの五円については明らかにこれを請求していない)ので全部棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 潮久郎 元吉麗子)

別表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例